えろす物語-伸子-
第一章
2005.8.22〜2005.8.29

     

宇治から吉野へまわって京都へ戻ってきた大野伸子は、小浜から越前経由で金沢へ行った。カメラを持って、気侭といえば気ままな一人旅だった。
伸子は、京都へ戻ってきて二十歳の誕生日を迎えた。誕生日のお祝いは、写真部仲間の女の子ばかりで、伸子を含め5人だった。
三条河原町にあるホテルのレストランで、誕生日のささやかなパーティを開いてもらった。パーティーの言いだしっぺは野木友子、大学2年で文学部美学専攻、伸子と同じクラスだった。写真部5人組といえばよい。伸子と友子、それに長谷由美子、白井麻里、小松百合の5人は同じ学年だ。
女が5人も集まれば、それは賑やかな場となった。話題は、男の話になって花が咲く。

     

「ところで、伸子、旅先で、いい人見つかったの?」
友子、今日の主客、伸子に訊いた。友子はすでに関係をもつ男がいたが、それは内緒であった。
「ふう〜ん、そんなもん、あらへんわ、すっぴんやわ、さみしいけど、ね」
伸子の話は本当だった。好きな男はいても片思い。いま付き合っている男はいなかった。
由美子、麻里、百合、それぞれに男がいるようでいないような、詳しくはわからない。

写真部の先輩に倉橋直哉がいる。院は別の大学へ進み、今はドクターコースにいる27歳の男だった。いわば5人の女達、男の話といえば直哉の話題で盛り上がる。男前、背が高くて痩せ型で、頭が切れて芸術センスもある。女たちの評価は、Aであった。
「直哉、呼んでみようか、きやへんやろかな〜」
麻里が携帯で直哉を呼び出した。OK、30分後にホテルまで来る。女の子ばかりでは詰まらない、男が同席してくれば、それはまた楽しい時間となる。

直哉が到着したころには、女の子たちはもうかなり酔い始めていた。直哉は研究室から直行で、素面だったしお腹が空いていた。テーブルの残り物を食べさせる女ども。直哉は、女の食べ残しを、それはまた、美味しくいただいた。
「ところで、せんぱい〜彼女はいらっしゃるの?」
野木友子が、興味津々とばかりに話題をだした。
「そう、いるといえばいるし、いないといえばいないし、さあ、どうだろう?」
直哉は、伸子の顔を見ながら、茶化すようにして云うのだった。
伸子は、直哉に憧れのような感情を抱くことがあった。伸子の直感、直哉は自分に興味を持っている!でも、確認したわけではなかった。伸子の場合、そうありたいと思う想いが、そのようなことを考えさせるのだった。
伸子の一人旅、この旅先を教えてくれたのは直哉であった。旅先で伸子は直哉のことを思った。宇治から吉野への旅は、古典物語をめぐる旅だった。小浜から越前まわりの金沢行きも、古い物語の旅ルートだった。

     

誕生会のそのあと二次会を喫茶店ですごして、伸子は倉橋直哉と二人だけになった。もう午後10時をまわっていた。京都は田舎街、夜の終いは早い。それでも鴨川堤は、男と女の二人組みが、並んで座っていた。酔い覚ましに鴨川堤を歩こうと言い出したのは、直哉であった。

お盆が過ぎて夜風も幾分かは涼しくなった鴨川堤。伸子は直哉と並んで、三条から北へと歩いていった。三条大橋から南は、アベックのメッカ、そのルートを避けたのは、直哉の方だった。伸子を暗い場所へ導きたい、男の期待が交じっていた。
「旅してきたんですよ、お盆の間、吉野までいって、金沢までいって、帰ってきました」
伸子は、それで直哉には話が通じると思った。
「そうなん、文学のトポス歩きやってきたんやね、そぅ〜」
「先輩が、いつかおっしゃってた、ルート、興味あったから・・・」
「昔の人の想像空間ってのは、壮大だしね、今はちっちゃい!」
伸子は、暗い堤を直哉と並んで歩きながら、ふっと男の匂いをかいだような気分になった。女同士でいる時間ではない、ワクワクする時間を、感じていた。

堤の向こうから自転車がやってきた。自転車を除けようとして、伸子と直哉の肩と肩が触れた。直哉が伸子の肩を抱くようにして、よろけた伸子を支えた。微かに伸子の化粧の匂いが直哉を感じさせる。肩を抱かれた伸子は、直哉に男を感じる。立ち止まった直哉と伸子。どちらから寄りかかったのかは判らない。暗い鴨川堤で抱き合った。向こうの橋に自動車が行き交う音が微かに聞こえてきたのを、伸子は覚えている。
<ぁあ〜せんぱい〜ああ〜せんぱい〜>
「大野さん、ちょっといやろ、抱いてあげたい!」
「「ぅう、はっ、は、い〜い〜倉橋せんぱい〜」
ふたりだけの鴨川堤で、伸子は直哉に初めて肩を抱かれ、そうして処女を捧げてしまうことになる。

直哉が伸子にキッスしたのは、抱き合って暫くしてからだった。無言で立ったままのキッスだった。伸子は、直哉の唇がかさねられて、おおきく深呼吸のような息をした。抱かれて伸子は無我夢中になる。頬が火照ってくる。足先が宙に浮いたような感じになる。直哉の手が、伸子の髪の毛が撫ぜさすられ、耳元から首筋を愛撫されだして、肌に伝わる感触で、もう伸子は立っているのがやっとだった。

     

直哉のマンションは、そこから歩いて10分足らずのところにあった。大通りから少し北へ上がった静かな場所にあった。伸子は、直哉から云われるままに、マンションへついていった。伸子は、この時間に直哉のマンションを訪れることの意味を知っている。男と女が一つの部屋に入ることがどういう結果になるのかを知っている。ただし、経験はなかった。
「むさいとこだけど、いいんだろ?」
マンションの前で、直哉は、伸子に確認するようにして云った。
「ぅっつ、せんぱい、すぐに帰りますから・・・ちょっとだけお部屋、見てみたい・・・」
道路面したマンション、三階のドアが開かれ、伸子は倉橋直哉の部屋に入れられた。

伸子は、直哉の部屋へ入り、鍵がロックされた音を聞いて、急に後悔するような不安感に見舞われた。なにか得たいの知れない不安と恍惚感だ、といえばいいのかもしれない。伸子は、処女を捧げる瞬間を何度も空想してきた。しかしいま、現実の場所が目の前にひろがったのだ。直哉が、伸子を抱きしめてきた。そうして耳元で呟くように云った。
「経験あるの?」
「ぅうう〜ん、はじめて、ああ〜はじめて、・・・こわい、こわい〜」
「そう、そうなの、後悔なんてなしだよ、いいね〜」
「ぅっ、うん、せんぱい〜いい〜いいわ〜」
伸子は、直哉のマンションの一室で、身をささげはじめるのだった。

直哉がリード役だった。伸子の唇へ、そ〜っとキッスをしてやる。そうしてブラウスの上から胸元を愛撫しだして、ボタンを外していった。伸子は、直哉の動作に身を任せた。部屋のクーラーが利きだした頃、伸子は上半身を裸になっていた。特別大きいとはいえない乳房が、あらわにされて、伸子は恥ずかしい気持ちを抱いた。
「大野さんのこと伸子って呼んでいい?」
上半身裸の伸子を抱きしめた倉橋直哉は、伸子が処女であることを知って、手荒なことはやめて、挿入するだけにしておこうと思った。

直哉が上半身裸になったあと、伸子は、スカートを脱がされ、パンティ一枚の姿になった。直哉もブリーフ一枚の姿になった。部屋の電気を消してやり、机の上のスタンドを点けた。そうして伸子を、セミダブルのベッドへと寝かせた。
「ぁあ〜せんぱい、わたし、わたし、こわい、こわい」
伸子は、丸ムシのように身体をこごめ、身体を震わせるようにして云った。
「だいじょうび、だいじょうぶだよ、伸子、心配しないでいいんだよ」
直哉は、伸子の横に寝そべり、背後から伸子のからだを撫ぜていった。パンティを脱がせてやり、直哉も裸になった。セミダブルのベッドで、男と女の裸体が絡み合いだしたのだ。

     

直哉は、伸子の乳房へ唇を這わせ、乳首を舌先で舐めてやる。伸子は、ああっ、と薄い声をあげた。手の平が、伸子の股間をひろげ、まさぐりだすとき、直哉は、大きくなりだした竿を伸子に握らせた。
「ぁああ〜せんぱい〜ああっ〜せんぱい〜すき、好きです〜」
伸子は、握った竿の感触を、大きい太い!と感じた。
<ああ〜これが入ってくるの〜ああ〜こわい〜>
伸子は、直哉に導かれるままに、ふとももをひろげ、膝を立てて、その中へ直哉をはさみこんだ。直哉の勃起した竿の先が股間に触れたとき、伸子は、心が奮えた。先端が挿しこまれたとき、伸子は、おもわづ、ああああ〜と声を洩らしてしまった。
<ああ〜入ってくる〜ああ〜イタイ、いたい、ああ〜圧迫される〜ああ〜>
「いたい〜」
おもわづ伸子が洩らした声を直哉は聞いた。そうして一気に竿を奥まで挿入していった。ぎしぎしと伸子の身体を押し開いた直哉は、竿のすべてを挿入したあと、暫くそのままでいた。
伸子の秘壷は固かった。竿を締めつけられる感触のなかで、直哉は、伸子を可愛い!と思った。

直哉のマンション一室で、伸子は処女を失った。直哉のベッドの上で、直哉に抱かれて、竿を挿入されたあと、伸子は、直哉が愛おしく思いだした。身体と身体が結ばれて、直哉がティシュで拭いてくれた股間を閉じた伸子は、真夜中の淋しさのなかで、直哉にしがみついていった。
「ぁあ〜せんぱい、誰にも云わないで、友子や百合なんかに云わないで・・・」
伸子は、写真部5人仲間の女達に知られたくないと思ったのだ。
「伸子のことは、誰にも云わない、二人の秘密にしよう、だから、いいね」

直哉は、珈琲をいれた。机の上のスタンドランプだけの部屋。直哉の部屋の中をあらためてじっくりと見回す伸子。伸子は、直哉に顔を向けなかった。恥ずかしくって顔をみれなかった。女の心は意地らしい、伸子はそんな言葉を思い出し、自分の心の様子と照らし合わせてみるのだった。
「バッハでも聴く?聴いたことあるんじゃない?」
直哉がCDをセットし、バイオリンの細い音色がスピーカーから流れ出した。
「大野さん、また、会えるね、また、会おうね」
直哉に手を握られて、伸子は、うれしい気分になった。男の人の部屋で真夜中に二人だけでいる。ロマンチスト伸子。伸子はうっとりと夢心地のなかにいた。

     

直哉からメールが来たのは、数日後だった。
・・・nobukoへ、会いたい、PM6:00、Mで待ってる、nao・・・
メールの簡単な内容だった。午後6時に四条木屋町の喫茶店にいけばよい。伸子はうれしくなった。取っておきの下着をつけていこう、真っ白がいいな〜やっぱり上はブラウスとスカートにしよう。伸子は、無意識に直哉に見られることを想定している。
そうだ、この前の旅したときの写真を持っていこう!伸子は、宇治から吉野へ、若狭小浜から越前を経て金沢へと旅したときの写真を、直哉に見てもらいたいと思った。

伸子は、6時前にMに着いた。直哉はすでに一番奥のテーブルにいた。珈琲がカップの底に少し残っていた。
「ふふ、閑だったから、少し早めにきて、待ってたんよ」
直哉と顔を合わすのは、あの夜以来だ。伸子は、内心ドキドキ、身体を許した直哉に、どう対応したらいいのか、判らなかった。
「こんにちわ!」
伸子は、直哉の顔をやっぱり見れない。視線を合わせることができない。直哉が伸子の顔を見上げて、眺め入ってるのが判る。
「その後、元気にしてた?なんともなかった?」
<ああ、倉橋せんぱい、会えてよかった、です>
直哉の心配顔に、伸子は、ええ、とだけ答えた。
四条大橋のレストランで洋食ランチを食べて、それから、伸子は祇園の花街へと連れられていった。

     

花街の色あいは、しっとりと濡れる赤、とでも表現すればいいだろうか、女の色恋を含め、悦びや悲哀があるトポスだ。直哉は、京情緒をたっぷりかもしだすスナックバーへ、伸子を連れていった。伸子は、夜の花街を歩くのが初めてだった。伸子は、艶めかしい雰囲気をもつ花街の色に、ちょっと気持ちをときめかせた。スナックバーは、直哉が行きつけのスポットだった。カウンターの中に中年の物腰優しそうな男の人がいた。「風の火」と名づけられたバーに、客は直哉と伸子の二人だけだった。

倉橋直哉の実家は、京都室町筋の織物問屋「松翔」と云った。直哉は次男坊で跡取りではなかった。「風の火」のマスターは御室武と名乗った。直哉の父親の友達だった。
「やあ、直ちゃん、今日は別嬪さん連れてきやはったんどすか、へえ〜」
マスターは、ちょっと驚いたように直哉の顔を見、伸子の顔を見た。中島みゆきの昔のアルバムが、バーに流れている。ちょっとくすんだような雰囲気のブラウンでまとめられた「風の火」は、金持ち道楽のお店、とでもいう感じなのだ。伸子は、戸惑っている。花街の一角に狭いカウンターのスナックバーに来て、場違いな感じがしてきた。だけど何か魅了されるモノがある。

「写真部の後輩なんだ、伸子さんというんだ、御室さん、よろしくね」
直哉に紹介されて、伸子は、
「よろしくお願いします」と答えた。
直哉は水割り、伸子はカクテルを飲んだ。京都は花街の夜、直哉に連れられて「風の火」へやってきた。なにかしら心ときめくモノがある。何んなんやろ〜伸子は、自分の気持ちのなかの女を感じる。ねっとりしたようなエロスな感覚であった。今夜、これから始まる直哉との交情を想う。先日、直哉のマンションで処女を捧げた伸子。今夜は、二度目、直哉と過ごす夜だった。

     

ちょっとふらつく足取りを、直哉に支えられながら、風の火をで、その裏道の奥まったところにあるホテルへ入った。京情緒が漂うラブホテルだった。二人連れの観光客が利用することも多いというラブホテル「帆」だった。和風の玄関を入ると、旅館のような造りになっているが、ルームは四畳半の和室とレトロな洋室。洋室は、ダブルベッドでだけでいっぱいだった。
<ぁあ〜せんぱい、来ちゃった〜こんな場所へ来ちゃった〜ふうううあ〜>
伸子は、火照る頬を意識しながら、直哉と二人だけになった静寂な部屋に入れられて、身体の芯がズキズキ疼くような感覚に捉えられてきた。




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